失われた北の鉄路の面影を求めて〜夏の北海道旅行3日目_旧士幌線とタウシュベツ川橋2025年07月15日 18:37

今日は、今回の旅行のメインイベント、旧国鉄士幌線の廃線跡巡りです。

国鉄士幌線とは、帯広から音更川沿いに登って石北本線の上川まで結ぶ計画の路線のうち、1939年に途中の十勝三股まで開業したものの、最終的に国鉄再建の煽りを受けて1987年3月に最終的に全線廃止された路線です。
その歴史の中で最大のイベントが、1955年の糠平ダム建設に伴う路線付替で、この時糠平駅やタウシュベツ川橋を含む多くの区間がダム湖の底に沈みました。

ダム湖の水位が下がると陸上に出現するタウシュベツ川橋は、糠平ダムでは国道とは対岸の林道沿いにあり、この林道に入るには1日15組限定の林道の鍵を借りなければなりません。この林道の鍵が曲者で、インターネット先着順予約ですぐに予約が売り切れる人気商品。半分諦めていましたが、7月14日(月)予約枠の最後の1枠を奇跡的に手に入れることができました。

今回の訪問では、計画線の終点上川から層雲峡温泉・三国峠を経由して旧士幌線に至るルートで訪問しました。宿泊地の美瑛から旭川・層雲峡温泉・三国峠を経由して林道の鍵を貸し出す道の駅上士幌に着くまで、地図ソフト上では6時間かかる計算となっています。しかし、信号も渋滞も少ない北海道の田舎の道路ですので、実際には途中寄り道をしても4時間で着いてしまいました。

まずは鉄道で越え得なかった三国峠。樹海が広がる上を、昭和40年代後半に全線開通した国道が、弧を描いて山の中を走っています。
写真は北海道の三国峠

そこから山を降りて旧十勝三股駅周辺に到着。ここは林業の集積地だったところで、最盛期には人口1500人を擁する街だったところですが、現在はカフェ1棟を残すのみで完全な無人集落になってしまっています。
写真は十勝三股の無人集落
十勝三股から数km山を降りると旧幌加駅に到着。ここも無人集落で唯一道路の除雪基地が設けられているだけです。
写真は旧幌加駅の構内
ここは駅の部分に線路とホームが残されておりました。

ここから一旦車を40分南に走らせて上士幌の集落に降り、道の駅で昼食を摂ると共に林道の鍵を借ります。注意事項のレクチャーと協力金の支払いを済ませて、再び旧士幌線沿いの山道を登ります。
糠平ダムのダム湖を登り切ったところが林道の入口。入口は厳重に鍵で管理されております。関係者以外は、1日15組の見学者だけがこの林道の鍵を借りることができます。
写真はタウシュベツ川橋に行く林道の入口
この日も林道の鍵を借りない飛び込みでタウシュベツ川橋に入ろうとする車を見かけましたが、これではすれ違いの車にくっついて林道に入ることは出来ても出ることは出来ません。
林道の砂利道を4kmほど下ると・・・
写真はタウシュベツ川橋
コンクリートは劣化し崩れ、中詰めの石も零れ落ち、随分と痩せ細った姿のタウシュベツ川橋がいました。
この時期はちょうどダム湖の水が途中まで上がっている状態で、下までは降りられません。発電専用の糠平ダムは、春から夏にかけて徐々に水を貯めて秋には満水となりタウシュベツ川橋は完全に水没。電力需要期の冬にダム湖の水を放出してタウシュベツ川橋は再び陸上に姿を現すのを繰り返しています。
写真は劣化が進むタウシュベツ川橋
タウシュベツ川橋は1930年代の士幌線開業期に設けられた橋ですが、1955年の路線付替時に放棄、以降ダム湖に沈んでは現れるを繰り返して、コンクリートは劣化が進み、中の鉄筋も剥き出しになっています。
写真はタウシュベツ川橋
タウシュベツ川橋の将来は明るいものではなく、現在の所有者の電源開発(株)はその保存には消極的であることに加え、糠平ダム自身も現在の発電専用ダムから治水機能を持たせたダムへの再生が検討され、よしんばコンクリートの劣化を止められたとしても水没したり姿を現したりを繰り返す現在の姿が将来にわたって維持されるか不透明な状況です。

短い時間でしたが、十分にタウシュベツ川橋を堪能し、山を降ります。その他にも、いくつかの旧士幌線遺構を見学しました。
幌加駅のすぐ北に「第五音更川橋梁」がいます。この橋はタウシュベツ川橋と同じ戦前製のコンクリートアーチ橋で、川を渡る1ヶ所だけアーチのスパンが広く取られています。
写真は旧第五音更川橋梁
下流に行き、糠平ダム付替で整備された区間にある五の沢橋梁を見学。これは戦後製ですが、戦前製の他橋と同じコンクリートアーチ橋になっております。1スパンのみの可愛い橋梁です。
写真は五の沢橋梁
一部、旧士幌線の廃線跡は遊歩道として整備されておりますが、廃線跡であることの目印を発見。懐かしの「国鉄清算事業団」のポールです。
写真は国鉄清算事業団のポール
さらに、糠平温泉郷の麓、糠平駅跡地は「鉄道資料館」が設置されており、屋外には国鉄時代の貨物列車に使われていた車掌車と客車の台車が保存されております。本当は資料館内部も見てみたかったのですが、あいにくこの日月曜日は休館日でした。。。
写真は上士幌町鉄道資料館の屋外展示
短い時間でしたが、間近に幻の橋、幻になる橋ことタウシュベツ川橋を体感することが出来、これだけでも今回の北海道旅行は成果大と言い切れます。